昭和の懐古録(黒電話)

昭和の懐古録

〜指をかけて回したダイヤルの記憶〜

(黒電話)

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「ヂリリリリ……リン!」という音が家中を突然駆け巡り、時間切れになる前に受話器まで走らされ、誰とも知らない相手を、聴こえる第一声で判断させられる。まるでテレビのバラエティのようだが、これは昭和の暮らしを象徴する日常風景だった。

これは、黒電話が時代を駆け抜けた昭和の記録である。

けたたましい呼出音

冒頭で述べた通り、黒電話と言えば忘れられないのが、あのけたたましく鳴り響いた呼び出し音だ。夜中の静まり返った部屋でもお構いなし。電話が鳴るたびに心拍数が上がる。「誰か出てくれないかな」と念じながら布団をかぶったものだ。よく漫画やアニメでも、その騒がしさを表現するために、音に合わせて「受話器が宙に浮く」なんていう演出もあった。

それもそのはず、あの騒がしいベル音は目覚まし時計と同じ原理で、内部で、二つの金属製の鐘をハンマーで叩いて鳴らす実にアナログな仕組みだった。電話が鳴り出す前に一瞬、チン…と微かに前兆があったと記憶している人もいる。それがまた、電話が鳴り出す「恐怖」を際立たせた。

電話は「滅多にかからないもの」という時代背景も関係したのかもしれない。今の時代のプッシュホンや携帯電話からは考えられないが、黒電話の着信音は、まるで緊急アラートでもあるかのように私たちを呼び出した。履歴や伝言メッセージを残す技術もまだ無かったので、通話の機会を逃さないよう急がせたのかもしれない。

でも、住人にとっては少し迷惑である。呼び出されるのが都合の良いタイミングとは限らない。トイレや風呂に入っていたり、テレビが面白い場面だったりすることもある。そうなるとたちまち、「お母さん出て!」「あなたが出なさい!」…のように、家庭内で駆け引きが始まるのである。

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ダイヤルを回す儀式

黒電話には0〜9までの、数字に対応する10箇所の穴の空いたダイヤルがついていた。そして番号を入力する際、ひとつひとつの番号の穴に指をかけてダイヤルを回す「儀式」が必要だった。「ジーコ…、ジーコ…、」と音をたて、一番号一番号回す度に、ダイヤルが元の位置に戻るのを待ちながら次の番号を回した。

昭和の懐古録・黒電話

もし途中で、回す番号を間違えたり、ダイヤルを最後の留め金のところまできっちり回さず、指を離してしまうものなら、「入力」は失敗。また一からやり直し。イライラすることもあったが、今振り返るとその不便ささえも懐かしい。指を離した際にダイヤルが戻る、あのノイジーなサウンドも、心地良さすら感じていた。電話をかけるあの動作一つ一つには、古き良き「昭和の血が」通っている。

家族に秘密のコール

今のように、電話が一人一台ではなかった時代、黒電話はリビングや玄関先に置かれていて、家族みんなのものだった。誰かに電話をかけるときも、かかってくるときも、家族に聞かれまいとして、口元を覆ったり、小声で話したり、コードの届く限り電話を持って隅に移動したりして、プライバシーを確保しようとしていた。そんなやり取りさえ今思えばほほえましい。

どんな電話の約束かにもよるが、電話を待つ間はドキドキしたものだった。タイミングよく、かつ自然に、電話を取れなかった場合、親や別の家族が先に電話をとってしまう。そうなれば、後で関係性や内容を問いただされる「尋問」にあうのは必至だ。

電話中に、「まだ終わらないの?」と家族から聞かれるのも気まずい瞬間だった。電話が終わった後は、オープンな自分をわざと演じたり、微かな恋心を悟られまいと、相手との関係性より、話した「業務連絡」を強調したりして、すぐにその場から退散したものだった。

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電話を借して下さい

今の時代以上に、電話は借りる文化であった。友達の家や親戚の家に行った際、「電話を借して下さい」とよく言ったものだ。友達や親戚の家からかける親に交渉するための電話は、不思議と、便利で有利なツールだった。「〜さんも良いと言ってるんだけど」と言えば、交渉はうまくいき、親も強くは言ってこなかった。今思えば、お世話になっているその家の大人の権威が背後に散らついたのかもしれない。

ところで、よその家の電話といえば、自分の家とは違う雰囲気の電話に、よく見入ったものだ。特に興味深かったのは、黒電話にかけるカバーだ。布生地を用いたハンドメイドなカバーだが、その柄には、各家庭の「奥様の」好みがよく表れていた。電話にカバーをかけるという発想自体も新鮮だったが、フリフリの花柄や、チェックなど、ただの電話機をインテリアの一部としてデコレーションしている様子は、大人のセンスと言うものを学ぶ場面だった。

教えてくれたこと

黒電話は、手元に携帯電話がある現代では忘れかけている、人と繋がる機会を逃さない大切さを教えてくれた。部屋の片隅にもし黒電話があるなら、思わずダイヤルを回したくなるかもしれない。あの頃の、人と繋がる温かい時間を思い出しながら…。昭和の暮らしを彩った黒電話。ゆったりとした時の中に、けたたましく鳴り響いたあの呼び出し音は、いつまでも思い出と共に、頭の中に響き続けることだろう。>>「黒電話や昭和レトロに会いに行ける場所の紹介:旅のしおり

指をかけて回したダイヤルの記憶〜

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