
映画考察・ゴジラ-1.0
〜典子は敷島をどのように救ったか?〜
中編
敷島に生きる意味を与えた典子。
彼女は彼の深い傷まで癒すことができるだろうか?
この記事はネタバレ考察となる。

敷島を呼び戻す魂の叫び
先回の考察で、敷島に必要だった“救い”について考えた。
彼は、PTSDを患っており、
トラウマの克服と共に、生きることへの肯定を必要としていた。
そしてその点で、典子は一定の役割を果たした。
しかし、
本格的に “治療する” には、限界を感じることだろう。
典子は敷島を救うことができるのだろうか?
毎晩のように見る悪夢。
それによってうなされ、叫ぶ敷島を見て、
典子は彼がただならぬ深い傷を負っていることに気づいたはずだ。
しかし戦後はそう言う光景が当たり前だったかもしれない。
敷島が話さない限り、彼の内にどんなトラウマがあるのか、典子には計り得ない。
日常を送る中で自然と癒えていくのだろうか?
典子は寄り添いつつ、彼を支えた。
一方、敷島はどうしてもケジメのつけきれない状況だった。
「黙れ!…
…そう言うのはいいんだよ」
ある和やかな晩の食事会に、緊張が走った。
典子と結婚するよう促す同僚に、敷島がそう吐き捨てたのだった。
典子の中で、何かがぷつりと切れた瞬間だったかもしれない。
敷島は、愛する“家族”のために生きたいと思う半面、
見殺しにしてきた”仲間の亡霊”から、
お前に幸せに生きる資格はない、と言われ続けていた。
これらは全て認知の歪みによるものなのだが、
目の前の典子と明子を、正式な家族として迎え入れたくても、
どうしてもその呪いから解放されなかった。
典子が動き出す。
自立に向けて、典子は銀座で働き出した。
敷島は自分でもどうして良いか分からなかっただろう。

典子と、“結婚はできない” でも、 “一緒にいて欲しい”
無茶なこと言っているのは分かっていた。でもケジメがつかなかった。
新たな一歩を踏み出す典子に、
自分も逃げずに取り組む必要性について考えさせられたことだろう。
機雷撤去の仕事が進むうち、
超大型水中生物の情報が寄せられる。足止めについての仕事も受ける。
大戸島で仕留められなかったゴジラであった。
逃れられない現実と強い罪悪感は、癒えるどころかいよいよ大きくなっていった。
ついに、頭に傷を負って帰った敷島に、
典子が毅然とした口調で切り出す。
「一体何があったんですか」
敷島は、「典子さんには…関係のないことです」と答えが、
諦めず食い下がる典子の言葉は、
閉ざされた敷島の心を少しづつ開いていった。
「何が浩さんをそんなに苦しめてるの?」
「あなたに助けてもらって、
今日まで一緒に生きてきて、
それなのに私は…
あなたの人生にこれっぽっちも関われないの?」
「あなたが何かを背負っているなら…
少しは私にも、分けてほしいんです。」
典子は、信頼できるセラピストの様だったかもしれない。
敷島がようやく胸の内を語り始める。
特攻から逃げたこと、
大戸島でも逃げて、家族に会えたはずの人間を見殺しにしてしまったこと、
野放しにしたゴジラに遭遇し、また何もできなかったこと、
自分は「生きてちゃいけない人間」だと感じること。
さらに、典子の…
「生き残った人間はきちんと生きていくべきです。」という言葉に、
「典子さんに何が分かるって言うんですか!!」
と苦しい感情も吐き出す。
典子も迷わず、自分のブレない強い思いで敷島に応じた。
「分かります!!
私の両親は、火に焼かれながら生きろと言いました!!
だから私は…どんなことがあっても死んではいけない!!…
そう思ってきました。」

まさに暗闇にいる敷島を、呼び戻すような魂の叫びだった。
敷島にとって…
① 真剣に向き合ってくれる人がいること
② 一人だけで闘っているわけでないこと
③ 葛藤があろうと前を向いて生きること
…これらが強く伝わったことだろう。
荒々しくも温かい、
典子の言葉は敷島を救っていった。
次回へ続くー
最終回は典子の生と死がもたらした効果を分析する。
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映画「ゴジラ-1.0」
興行成績
「ゴジラ-1.0」
動員 503万人/興収 76.5億円(+米国 約87億円)
(参考比較)
「初代ゴジラ」
動員 961万人/興収 1.5億円
「シン・ゴジラ」
動員 569万人/興収 82.5億円(+米国 約2.7億円)
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受賞歴
(2025/4/1 現在)
第48回報知映画賞 監督賞
第36回シカゴ映画批評家協会賞 視覚効果賞
第27回ラスベガス映画批評家協会賞 外国語映画賞
第27回ラスベガス映画批評家協会賞 ホラー/SF映画賞
第28回サンディエゴ映画批評家協会賞 視覚効果賞
第28回フロリダ映画批評家協会賞 視覚効果賞
ノースカロライナ映画批評家協会賞 視覚効果賞
第13回ジョージア映画批評家協会賞 国際映画賞
第22回ユタ映画批評家協会賞 視覚効果賞
2023シアトル映画批評家協会賞 国際映画賞
2023シアトル映画批評家協会賞 視凳効果賞
2023シアトル映画批評家協会賞 悪役賞
第19回オースティン映画批評家協会賞 国際映画賞
デンバー映画批評家協会賞 SF/ホラー映画賞
デンバー映画批評家協会賞 非英語作品賞
ハワイ映画批評家協会賞 SF映画賞
ポートランド批評家協会賞 SF映画賞
カンザスシティ映画批評家協会賞 SF/ファンタジー/ホラー映画賞
第66回ブルーリボン賞 作品賞
第66回ブルーリボン賞 主演男優賞
第66回ブルーリボン賞 助演女優賞
第78回毎日映画コンクール 美術賞
国際映画音楽批評家協会賞 ファンタジー/SF映画部門作曲賞
第96回アカデミー賞 視覚効果賞
第47回日本アカデミー賞 最優秀作品賞
第47回日本アカデミー賞 優秀監督賞
第47回日本アカデミー賞 最優秀脚本賞
第47回日本アカデミー賞 優秀主演男優賞
第47回日本アカデミー賞 優秀主演女優賞
第47回日本アカデミー賞 最優秀助演女優賞
第47回日本アカデミー賞 最優秀撮影賞
第47回日本アカデミー賞 最優秀照明賞
第47回日本アカデミー賞 優秀音楽賞
第47回日本アカデミー賞 最優秀美術賞
第47回日本アカデミー賞 最優秀録音賞
第47回日本アカデミー賞 最優秀編集賞
第17回アジア・フィルム・アワード 視覚効果賞
第17回アジア・フィルム・アワード 音響賞
第4回 クリティクス・チョイス・スーパー・アワード SF/ファンタジー映画賞
第4回 クリティクス・チョイス・スーパー・アワード 悪役賞
ブラム・ストーカー賞 脚本賞
星雲賞 メディア部門受賞
ファンゴリア・チェーンソー・アワード 最優秀ワイド公開作品賞
ファンゴリア・チェーンソー・アワード 最優秀音楽賞
ドルビーシネマ・ジャパンアワード 2024 特別賞
第7回映画のまち調布賞 録音賞
第7回映画のまち調布賞 編集賞
第7回映画のまち調布賞 特別賞
第52回サターン賞 国際映画賞
第30回 AMD Award ’24 大賞/総務大臣賞
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