
映画考察・ゴジラ-1.0
〜典子は敷島をどのように救ったか?〜
前編

これは本作を楽しむ上で、ぜひ注目したい点だ。
ゴジラ-1.0は怪獣映画であるだけでなく、敷島と典子の人間ドラマである。
尚、この記事はネタバレ考察となる。

敷島が必要とした救い
「俺は…特攻から逃げた人間です。」
敷島が抱えていた苦悩はこの言葉に要約される。
彼は、自分が胸を張って生きれない、「生きてちゃいけない」人間だと考えていた。
自分の逃げた姿勢のせいで、
国の期待を裏切り、仲間を見殺しにし、
手のつけられない怪物ゴジラも野放しにしていた。
そして彼は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を患っていた。
そんな傷だらけの敷島と、闇市で出会ったのが典子である。

大石典子
空襲に逢い、目の前で両親を亡くすという壮絶な経験をするが、その空襲の際、死ぬ間際の見知らぬ女性から乳児の明子を託され、強くたくましく育てながら生きていく女性。敷島とは闇市で出会い、行く宛が無かったので共に暮らすようになるが、徐々に敷島に好意を抱くようになる。
典子は、敷島にどのように影響を与え、助けになったのだろうか?
各シーンを振り返りながら考察してみよう。
ところで、一般的にPTSDの治療には、薬以外に認知行動療法というものがある。
患者にとって、トラウマと向き合うのは怖しいことだが、いつまでも逃げてばかりでいると逆効果(悪循環)になるので、信頼できるセラピストと共に、あえてトラウマと向き合い、繰り返し慣れていくことで、徐々に恐怖感が薄れ、フラッシュバックが起きても、体験はあくまで過去の事で、現在のことではない、身の危険は生じない、ということを心身ともに理解できるように助け、克服して行ける療法である。
勿論、このような療法を典子が知る由もないが、
典子の存在や言動は、敷島を癒す一定の効果をもたらしたのかもしれない。
まずは、典子との出会い方も敷島にとってはよい刺激となっただろう。
特攻や大戸島の件から、後ろめたく逃げて生きていた敷島の前に、突如、
盗みをして逃げる典子が走り込んできた。
しかも赤子を抱えて。
そうこうしていると、
典子は、自分に赤子を渡してさらに走り去った。
敷島もこれまで逃げてきた人間とは言え、彼女の逃げる姿は自分とは違っていた。
強くたくましく逃げて生きていた。
その姿は、敷島にとって印象的だったことだろう。
その後、無事に赤子を返すことができたが、
劇中で初めて、敷島は自分の素直な不満の感情を吐き出せていた。
さらにその後も、
強引ではあるが、自分を信頼して身を寄せてきた典子や、その寝顔を見て、
敷島は困りながらも、自分が生きる価値を諦めずに理解し、
張り合いや自尊心を持つことができただろう。
ひどい雨の中でも彼が、典子や明子のために良い仕事を一生懸命探している姿は、
そのことを物語っている。
収入の良い仕事を見つけて帰ったシーンは本当に印象的だった。
敷島は “家族“ のために生きることを喜び、生き生きとしていた。
でも、見つけた仕事は命の危険を伴う仕事だった。
特攻ほどの命がけではないとは言え、
再び、ある程度自分の命をかけて、誰かのために働く機会だった。
戦争から逃げた自分への、僅かながらの挽回の機会とも考えたかもしれない。
いずれにしても、危険な仕事だと分かった典子は敷島に、
「何言ってるんですか!やっとの思いで生きて帰ってきたんでしょ」
「…死んだらダメです!」
と訴えた。
敷島は嬉しかったことだろう。
国のため、呉爾羅から基地を守るため、“死んでこい” と言われ続けてきた自分に、
“死んだらダメだ” と言ってくれる人がいた。
生きることを強く肯定してくれた。
心の傷は残るものの、
典子のセリフや存在は、敷島の心にどれほど支えとなったことだろう。
…しかし、
敷島の胸の奥にはまだ、典子の立ち入れない場所があった。
典子は引き続き、敷島を救って行けるだろうか?
次回へ続くー
次回は敷島だけでなく典子の深い胸の内も垣間見る。
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映画「ゴジラ-1.0」
山﨑貴監督
長野県松本市出身。阿佐ヶ谷美術専門学校卒業。
1979年(昭和54年)自作映画『GLORY(グローリー)』撮影。
1986年(昭和61年)株式会社白組に入社。
2000年(平成12年)初監督作品『ジュブナイル』公開。
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監督映画
2000年 ジュブナイル Juvenile
2002年 リターナー Returner
2005年 ALWAYS三丁目の夕日 Always – Sunset on Third Street
2007年 ALWAYS 続・三丁目の夕日 Always 2
2009年 BALLAD 名もなき恋のうた
2010年 SPACE BATTLESHIP ヤマト Space Battleship Yamato
2011年 friends もののけ島のナキ Friends: Naki on Monster Island
2012年 ALWAYS 三丁目の夕日’64 Always 1964
2013年 永遠の0 THE ETERNAL ZERO
2014年 STAND BY ME ドラえもん Stand by Me Doraemon
2014年 寄生獣 Parasyte: Part 1
2014年 BUMP OF CHICKEN “WILLPOLIS 2014” 劇場版
2015年 寄生獣 完結編 Parasyte: Part 2
2016年 海賊とよばれた男 Fueled: The Man They Called ‘Pirate’
2017年 DESTINY 鎌倉ものがたり DESTINY: The Tale of Kamakura
2019年 アルキメデスの大戦 The Great War of Archimedes
2019年 ドラゴンクエスト ユア・ストーリー
2019年 ルパン三世 THE FIRST Lupin III: The First
2020年 STAND BY ME ドラえもん 2 Stand by Me Doraemon 2
2022年 GHOSTBOOK おばけずかん
2023年 ゴジラ-1.0 GODZILLA MINUS ONE
2024年 ゴジラ-1.0 /C GODZILLA MINUS ONE MINUS COLOR
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